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ルーブル文化を歌声に乗せて(前編)

2013年1月、新橋・銀座にあった歌声酒場が、60年の歴史に幕を下ろした。
「ルーブル」と呼ばれるその社交場は、知る人ぞ知る大人の隠れ家。
連日連夜人が集い、シャンソンやフォークソング、昭和歌謡などを楽しんだそう。

ルーブル店内-1

そして同年11月、ルーブルの舞台は水戸の地へ移った。
水戸芸術館近くの路地裏で、ご主人とともに「シャンソンカフェ ルーブル」を切り盛りするのは、中澤敦子さんだ。
「子供の頃から自分で演じるのが好きで、高校卒業後は水戸を離れ、日芸(日本大学芸術学部)演劇学科に進みました。『将来は絶対に舞台女優の道しかない!』と思ってましたね」

「その後、新劇女優を目指して劇団文化座に入りました。文化座は、山代巴さんの『荷車の歌』や長塚節さんの『土』など、社会の底辺で生きる人々を描いた作品を上演していたので、私の生粋の茨城弁が役に立つかなと思って。案の定、『土』ではすぐに村の女の子役をもらえましたよ」

※新劇…ヨーロッパ流の近代的な演劇を目指す日本の演劇。旧劇(歌舞伎)、新派(書生芝居の流れ)に対する言葉。当初翻訳劇を中心に始まり、芸術志向的な演劇を目指した。

地熱舞台『地熱』で演じる中澤さん(昭和40年代)

大物も集う歌声酒場

「本当は新劇女優一筋でやりたかったんだけど、どうしてもそれだけでは食べていけなかったの。それでアルバイトをすることになったんだけど、そのアルバイト先というのが、当時新橋にあった会員制の歌声酒場・ルーブルなのよ。私だけでなく、新劇女優の仲間も皆、ルーブルでお世話になっていました」

「ルーブルでの私たちの仕事は、カウンターの中で4時間歌を歌い続けること。レパートリーは500曲以上あったかな。でも、カラオケみたいにマイクはなく、伴奏はギター1本だけ。それで4時間歌い続けるんだから、今考えるとよくやったわよね。あと、歌だけじゃなく時には芝居もやるので、女優じゃなきゃ務まらない仕事なんだと思います」

ルーブル40周年-1帝国ホテルで行われた、ルーブルの40周年記念パーティー

骨董品や美術品を愛してやまなかった先代オーナーは、ルーブル美術館にちなんだ店名をつけた。
紀元前4世紀後半からギリシャで作られていたタナグラ人形や、パリ万博のポスターが飾られるルーブルには、噂を聞きつけた当時のルーブル美術館長が来店したこともあるそう。

「政財界の有名な方々もよく店に通われていて、私たち女優が出演する舞台のチケットを買ってくださっていたの。後の総理大臣やジョン・レノンさんもお忍びで来たことがあるのよ。ただし、ルーブルでは女優が歌っている間、お客様は一切喋ってはいけない。何とも不思議な空間でした」
各界で有名な大物たちも、ルーブルでは贔屓なし。他の客と一緒に気分良く歌に聴き入っていたそうだ。

P1030676タナグラ人形

2代目の決意

ところが1988年、ルーブルは新橋から姿を消すことになってしまう。店が地上げにあってしまったのだ。
「その後、オーナーから店を引き継がないかって言われたときは、本当に悩みました。引き継いでしまったら、もう舞台には立てないだろうな…って」
しかし、迷っていた矢先にオーナーが亡くなった。決断を迫られた中澤さんは、その遺志を継ぐべく、ルーブルの2代目となることを決意した。

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「私はおっちょこちょいだから、皆に心配されました。『あっこ(中澤さん)にお店なんてできるのかしら』って。請求書の書き方すら知らなかったしね。でも、とにかく走り続けるしかないので、1か月間、銀座中を歩き回って新天地を探しました」

そしてめでたく銀座の地でルーブルは開店。以来20年間、中澤さんは笑顔と歌声が絶えない空間を作り上げた。
「店を引き継いだことで、確かに人生は変わってしまった。でもそれ以上に、ルーブルでの出会いは大きな財産です」
中澤さんは、目を細めながら語ってくれた。

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“あの雰囲気”を故郷で

時は経ち、2013年。中澤さんは、故郷・水戸へと戻った。
「銀座ルーブルは会員制だったので、人のネットワークがしっかりできていました。だから、水戸にお店を出してからも、東京から仲間がたくさん集まってくるんです。銀座のように毎日はできないけど、月に一度の“ルーブルデー”には、何時間もぶっ通しで、皆で歌い続ける。“あの雰囲気”、やっぱり楽しいのよ。長年培ってきたルーブルの文化を、水戸の方々にも味わってもらえたら嬉しいですね」

今のルーブルは会員制ではないので、気軽に立ち寄ってみては?
…と言いたいところだが、ルーブルは常に開いているとは限らない。“ルーブルデー”も、以前のように月に一度のペースでは開催できなくなった。
というのも、中澤さんにはもう一つの顔があり、超多忙な日々を送っているからなのだが、それはまた後編のお話。

P1020492-1シャンソンカフェ ルーブル
※営業は不定期のため、お電話でご確認ください。

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住所:水戸市泉町1-2-26 作田ビル2階

TEL:029-232-8122

この街に最先端を根付かせたい(後編) 演じて、伝えて(後編)

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