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原作は私ですが、この物語は水戸の皆さんのものです

“みんなと夜歩く。たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに特別なんだろう。”

2004年に発行された小説『夜のピクニック』。
茨城県立水戸第一高等学校(以下、「水戸一高」)の伝統行事である「歩く会」をモデルにした同作は、2005年に第2回本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞を受賞した。
その後2006年の映画化を経て、今年、10年ぶりに音楽劇として水戸に「夜ピク」が帰ってきた。

「舞台で上演されると初めて聞いたときは、驚きや喜びより『この話をどうやって舞台化するんだろう』というのが率直な感想でした。でも、実際に観劇した今、音楽劇にしてくださって本当に良かったなと感じています」
『夜のピクニック』の原作者である恩田陸さんは、久しぶりの水戸の地で、目を細めながら語る。

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約80kmの行程を一晩かけて歩く、水戸一高の歩く会。
生徒1,000人が列を成してぞろぞろと歩く姿は、何とも言い難い独特の雰囲気がある。

実は、恩田さんもかつてその列の一員だった。
「学生時代は転校が多く、水戸には中学3年生の時に引っ越してきました。水戸といえば、自分が住んでいた頃のイメージが強いですね。『通学時に工場から納豆のにおいがしたな』とか。まず思い出すのは、そういう細かい記憶なんです」

「水戸一高に入ったとき、『すごいなこの高校は』と衝撃を受けました。だって、入学式で入学生代表が『春爛漫…』と挨拶を始めたら、生徒から野次が飛ぶんですよ。でも、これも水戸一高の面白さというか、良いところなのかなと、今は思います」

「歩く会という行事は、疲れたという思い出もありますけど、それでも楽しかったです。友達と普段できない深い話をしたりね。ちなみに、私が高校生だった当時は女子が少なく、ほぼ男子校みたいな感じだったので、『夜のピクニック』のように淡い恋心が咲くようなことはほとんど…(笑)」

%e6%9d%b1%e6%b5%b7%e3%82%b3%e3%83%bc%e3%82%b9%ef%bc%91水戸一高歩く会の様子

そんな恩田さんが3年間経験した歩く会。『夜のピクニック』では、疲労がピークを迎えたときのやるせない気持ちや、疲れを通り越して「ハイ」になったときの会話、すれ違う人間関係や恋心…歩く会から生み出される繊細な空気感が、忠実に描かれている。

「自分も経験した歩く会のことを書き残しておきたいと、小説家になったときから思っていました。いや、もしかしたら高校生の頃からそう思ってたのかもしれません。だから、書き上げたときは、とてもホッとしました。『あの雰囲気』や『あの感じ』を作品の中に封じ込めることができたという実感があったんでしょうね。ただ、小説の中では登場人物が夜でも会話していますが、実際は疲労のせいで幽霊のように歩いているのが本当のところですけど」

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「あの雰囲気」や「あの感じ」を綴るため、恩田さんは実際に歩く会を取材した。

「若いっていいなと思いながら、生徒たちと一緒に歩きました。それに、改めて変な行事だなと。医療班や休憩所の手配まで、準備もすごく大変なのに、OB・OGも含めたくさんの人が関わっている。でも、『みんなこの変な行事が好きなんだ。だからこんなに長く続いているんだ』と、しみじみと感じました」

「実は、『夜のピクニック』は爽やかな話になる予定じゃありませんでした。ホラーというか、ミステリータッチで書くつもりで、取材に行ったんです。でも書き始めたら、この行事だけで小説になると思い、割と早く方針転換をしました」

そんな裏話を聞きつつ、
「歩く会の魅力のひとつとして、極限状態を共有するという一体感の先に、何か突き抜けたものがあるんじゃないかと思うんです。物事は一度限界を経験しないとわからないですからね。ちなみに、歩く会の経験が今の私に役立っていることは…徹夜をするときかな(笑)」

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「『夜のピクニック』が私の中で特別な作品であるのは間違いありません。それまでずっとホラーものばかり書いていたせいか、この作品で初めて『普通の小説を書いたんだね』と言われるようになったんです。ジャンルに縛られずに色々な作品を書いていくきっかけになったこの作品は、小説家としても大事な作品です」

では、今回の音楽劇を通して、恩田さんは何を感じたのだろうか。
「観劇している側もまるで舞台の中にいるような、惹き込まれる演出の数々。歩き続けるという話を、固定された舞台でとても効果的に表現していて、素晴らしかったです。いつかぜひ再演してほしいですね」

「それと、『歩くということは、人生の代名詞だな』と、劇中歌を聴いて感じました。自分が書いているときは全然気づかなかったんですけどね。『これからどっちの道を歩いていこう』、それはまさに人生そのものなんじゃないでしょうか」

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「そもそも『夜のピクニック』は水戸にいたから書けた小説です。今回の舞台化は、水戸の皆さんへのお返しというか、娘を嫁に出すような気分ですね。原作は私ですが、この物語は皆さんのものです。今でもこうして水戸で愛されているのを肌で感じて、本当に水戸の皆さんのものなんだなと。これからも『あの感じ』を皆さんと共有して、一緒に『夜のピクニック』を育てていきたいですね」

傍から見れば、生徒1,000人がゴールを目指してただ歩くだけの行事。

しかし、そこにはそれぞれの物語がある。
実際に歩く人、歩く会を陰で支える人、『夜のピクニック』という作品を通して歩く会に出会った人。
その物語の一つひとつは、決して壮大なものではないかもしれないが、きっとかけがえのないものとして、人々の心に残り続けていくだろう。

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※写真は水戸芸術館提供(撮影:刑部アツシ)。歩く会の写真は水戸一高提供。

音楽劇『夜のピクニック』
チケットは完売御礼。当日券などについては水戸芸術館チケット予約センター(電話029-225-3555)にお問合せください。

◆『夜のピクニック』あらすじ◆
全校生徒が24時間かけて80kmを歩く高校の伝統行事「歩行祭」。3年生の甲田貴子は、最後の歩行祭、1年に1度の特別なこの日に、自分の中で賭けをした。それは、クラスメイトの西脇融に声を掛けるということ。貴子は、恋心とは違うある理由から西脇を意識していたが、一度も話をしたことがなかった。しかし、ふたりの不自然な様子をクラスメイトは誤解して…。

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住所:水戸市五軒町1-6-8

TEL:029-227-8111

気づいたら水戸が好きで好きでたまらなくなっていたん・・・ 直に触れると、本物に出会える(前編)

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